第54章

「プルルル」

一連の着信音が、相澤裕樹のポケットから聞こえてきた。

彼は足を止めることなく洗面所に入った。

すぐに、着信音は消えた。

樋口浅子のスマホには、相手が電話を切ったという表示が出ていた。

樋口浅子の顔から血の気が引き、冷たい感覚が全身を駆け巡り、体は止めどなく震えていた。

もうほぼ確信していた……

さっき送ったメッセージは、全て相澤裕樹のポケットにあるあの携帯に届いていたのだと。

つまり——

相澤裕樹こそが裕樹だったのだ!

樋口浅子は思わず拳を握りしめ、呼吸が荒くなり、顔は青ざめていた。

この間ずっと、彼女は裕樹に対して、相澤裕樹への未練や名残惜しさを包み隠さ...

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